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髙安ミツ子

ミモザが黄金色に咲いて春へのスウイッチをいれる
人の哀しみの旋律でじんわりと咲く雨の紫陽花
盆棚を飾り日常と先祖がつながる蝉しぐれのお盆があって
晩秋を縫い合わせるように蔓を絡め純白に咲く夕顔
今年の終わりの半鐘を打つように冬空に高く咲く皇帝ダリア
繰り返す愛おしい季節の飛沫に濡れながらも
私の物語は帰り道を捜している
私には登り切れない坂道がはるかに見えて
今宵の雨は不安で濡らしていく
夜通し降っていた雨が未明にやんで
夜明けになると私の歳月を集めたバスがやってきて
浅い眠りの私を乗せて走りだした
過去からぐんぐん広がる時の放物線を
幼い私から老いていく私までを束ねてバスは走っていく
川を渡り橋のたもとで懐かしい人たちから思い出写真を手渡され
立葵が咲く古い町角ではもう逝ってしまった人々が待っていてくれた
思いがけず忘れ歌を口にすると喜びや悲しみがあふれてきて
ホタルの光の点滅のように次々と重く胸に迫ってくる
ふと 人生の澱みを越えられたのは
野の花の抒情を小脇に抱え ただ詩を書くことであったかと
見やるとバスは景色を動かしトンネルをくぐり
浜昼顔の咲く海辺に向かっているようだ
岬では誰に会えるのだろうか
やがて太陽が水平線から高く昇ると
バスは目覚めない私を下ろし残像を残したまま走り去った
残された少ない時間 生きた証などはいらない
おぼろげに熟れていく果実のように
儚い哀しみを知りながらやがて私も消えていこう
それでも 夜明けのバスには歳月のやさしい落し物があるように思え
百日紅の咲く猛暑でも私はバスを待っている