詩集「聴花}

どこの山あいで

私は父を見失ったものだろう

父の歌は劫初からの脅えのように

長く私の中で泣いていました


温かい視線の安らぎを剥ぎ取り

一転して澱んだ夜

不信を訴える神もなく

積み重ねてきた言葉はボロボロに風化し

それでも私は

言葉の欠片を集める事に夢中でした

ねじれてしまった風景のこちら側は

繋ぎとめた言葉さえ貧しくみえました


父はどの山で落盤にあったのですか

切り倒した大木に足をとられ

それでも魂を砕いて灯した命の中で

私を呼ぶ声は聞こえていました

その人は大木の下から父を救ったのですか

落盤の土砂を掘って手を差しだしたのですか

操るほどに

分ける事の出来ない愛に

掌は熱く震えていました

震えるほどに飲む杯は

あなたを更に一人ぼっちにしたのでしょう


袋小路の山あいで

あなたは幾度こちらを振り向いたでしょう

季節が変わる度毎に私を呼んでいたのでしょう

山の風景に重さが加わってゆくたびに

自らかけた兎の罠に

自らかかった狩人の焦燥は

擦り切れた靴音を鳴らして

あなたは病んでいきました


深い落盤の穴底で

せめて苦しむなかれと願う辛さを

私はどんな近しいものにも伏せていました

遠雷がかすかに耳を脅かし

父の逝った谷間の方角を知りました


故郷は雨

私にとって曲線の故郷

山はかすみ

もう息のない父の淋しさが

一斉に開花した花影をかけていく

せめて花よ

父に優しい歌であれ

そして最後の落下の影であれ


   

                

花影の歌