三回目の大波が義母を襲いました
襲うたびに義母の心を砕いては
引き潮になった波は
無残な静けさを残していきました
食することも
答えることもできない義母を
潮の澪は義母を迷路の時間に連れていくのです
義母の声ははるか沖合に運ばれたのか
私の腕の中で軽い人形のように見えました
さしだす好きなカステラを少しずつ食することで
自ら 命の綱を手繰り寄せたのです
そして命を飲み込んでいく澪から逃れられたのでした
日をかさねるごとに
義母は私の手を握り幼児のように
「蛍の宿」と「戦友」を一緒に歌いだしました
瓦礫のようになってしまった義母の記憶から
二つの歌に残されている思いは
弱い蛍の灯りのように
グループホームのこの部屋で
寂しさを語れないまま夕焼けに
赤く燃えているのでしょうか
どんな花をもめでた義母の心に
どんな花も添えることができない今
私は生きることの辛さを見ています
たくさん聞かせてくれた
義母の人生を
ひたすら生きた義母の時間をなぞっていると
一輪の赤い椿の花の義母に出会うのです
血潮のようなこの花は
義母と暮らすことで見ることができた
私の大切な花なのです
今の辛さをぬぐってあげられない私は
赤い椿の花を心に活けて
義母の顔をなでています
義母は穏やかな顔で眠っています
