願成就寺の桜

高安ミツ子


み寺は目覚めたように

枝垂れ桜が そして染井吉野が

今年を約束したように咲き誇っています

長い歴史の境界線をついばむように

頭上から鶯の囀りが聞こえてきます

 

鎌倉幕府の滅亡から激動を歩いたみ寺

土気城主の酒井定隆による

「上総七里法華」なる法華宗への改宗と

み寺が受け止めた運命は

桜と一体になって境内を染めています

生命の果てを知らせる淡い花々に

何故か明日への願いがかすかに湧いて

桜を愛でた定家の歌が蘇ります

  

ああ 突然古木の枝垂れ桜が

人族の愚かさを切断するように

大きく揺れ 

み寺の歩いた歴史と人の悲しみが

花吹雪になって舞い散っています

 

鶯の囀りが

地方の歴史を背負ったみ寺と青空を繋げ

生きるための折り合いを捜している私を

飲み込んでゆきました

明日になると遠い景色になりましょうが

花吹雪は躍るように境内を清めています

私はみ寺で今日との別れを歩いています