『夜の憂いより住みよかん』
冶承 寿永のかの君の
おぼつかない帆柱は山里の清水になって
あやうく登った坂道は
栄華に傾く盃に散った花弁に続いている
石段を登りつめると
古人の淋しさは
ゆきづまりの路地に咲いた
のうぜんかずらか
確かに歴史の重さに沈んでいる
古寺は滅びきれないまま
人の花が異様に咲いて
花の姿の写らない寂しさのまま漂っている
乾いた人息のくりかえしに
疲れ果てた巡礼が通った後のような
奇妙な声だけの行列が過ぎてゆくと
私は埋み桶から流れ落ちて
古人の確かな寂しさにのまれてしまった