詩集「聴花}

    石榴

高安ミツ子


過去へにも

未来にもつながらない時間を

私は手の中で転がしていた

時間は人の魂の色をして

冷たく透き通り

石榴の割れ目から覗いている


遠い母の記憶が薄れ始め

あるいは妙に鮮明になり

母の裾は

郷愁の潮騒になって私の嗚咽をけしている

気付いてみれば

私の裾に隠れていた二人の子供は

もうあんな遠くを歩いている


庭の隅で実をつけた幾つかの石榴に

母の記憶はないのだが

コトコトとこぼれる透き通った種が

つなぎ忘れた時間のようで

今の私の小さな孤独を感じている


狭い庭を歩くことで

私の記憶が薄れてゆく

薄れることに何の恐れもなくなる頃

三つの時間は

裾の先から重なってくるのだろうか

石榴の実の中に

遠い山の音が聞こえている



             
       
 挿絵  土井畑 多摩代