鶯のさえずり       
高安ミツ子

日常の図柄を弱くしたコロナの暴走は

生活様式をがらんと変えてゆきました

そんな折 孫とのリモート授業が始まりました

笑って映る孫のパソコン映像には救いがあり

頼まれた時間は一輪の花をみる楽しさでした

 

あなたの学校生活でもコロナの影が歩いていましたが

今日の出来事をあなたは若さの早口で話します

数学の授業は後回しにして

ばあばは今日の出来事を聞いています

育ちゆくあなたとの最後の時を感じますが

いっぱい いっぱい聞いて

庭に咲く花と一緒に花瓶に飾ることにしました

 

少しの間二人で会話遊びしましょうよ

正二十面体の中に潜り込み転げまわりましょうか

止まることのない時間を感じますが

それでも 雨上がりに見つけた木苺を

二人でつまんだような気持になるのです

思い出歌を口ずさみ

紡いだあなたとの三年間は風のようでした

そして命の重なりを感じ

ばあばは死ぬことが怖くなくなりました

ようやくコロナからの出口が見えたころ

あなたは念願の高校生になりました

 

川向うの桜並木をあなたが歩いていきます

川のこちら側では老木の桜が咲き

心地よかった『あのね おばあちゃん』が蘇り

春愁の風に吹かれています

あなたの旅たちを祝うように

今日のばあばは鶯のさえずりを真似ました