高安ミツ子

今日の終わりを吸い込むように

夕暮れに酔蝶花が咲きだした

風や虫を憩わせて咲くいくつもの酔蝶花をみていると

夕暮れは私の輪郭をも揺らしていく

 

老いて なお不揃いの心があって

生への答えは見つからないけれど

何かに抗うように声にならない私の思いは

点いたり消えたり

暮れなずむ庭で私の落し物は何だったろうかと思えてくる

 

この頃は時代の猛暑にやけどをしているような私だが

八十歳近くなると人生をひと回りしたような思いがして

過ぎてきた時を手繰り寄せることで

生きることへの帳尻合わせをしているようだ

 

記憶の中の私は小さな物語のまま

時の雨傘をさしてひたすら私を歩いていた

どんな思い出にも辛さや切なさはあったけれど

それらは上書きされ今は懐かしさとなって

過去の私から今の私へと手渡されている

そしてあの曲がり角で出会えた優しかった人々が思い出される

 

盛夏に咲く酔蝶花は風に揺れていて

花火のような花々には優しさがあって

今日の私の残り火が帰り着く場所のように思わせてくれる

 

そうだ 今宵 思い出写真を夜の静寂に沈めて

宵闇に咲く酔蝶花の蝶になって私の思いをつたえようか

わずかに見える明日を抱えながら