夏空の綿雲やイワシ雲が見えなくなる頃
酔蝶花は夕闇から夕闇へと
手を広げるように咲いています
酔蝶花は深い闇の伝説を語るように
どこからか吹いてくる風のそよぎに
微かな香りを混じらせていきます
すると大分過ぎてしまった時計がまわりだし
消えていた私の悲しさや
淋しさの匂いが
酔蝶花の傍らに漂い始め
あの時の後ろ姿がひとしお蘇ってきます
故郷を離れた夜の深い哀しみ
行き先の不安を感じるような
全山を包む漆黒の中
無情なほど進むことを拒んだ山霧
あの時の峠が迫ってきました
夜はひっそりと心の波紋を広げていきます
今宵の月明かりは
ひらりと昼間を飛び越えて
ひらりと過去を押しやって
夜は静かにたゆたゆと流れています
酔蝶花の蜜を吸うように
虫たちが飛びかい命をつないでいます
いくつもの思いを背負った私の心歌は
命をつなぐことはできたのでしょうか
私の眼の奥で
揺れている私の道すがらを
酔蝶花は夜のやさしさで包んでいます
高安ミツ子
夏空の綿雲やイワシ雲が見えなくなる頃
酔蝶花は夕闇から夕闇へと
手を広げるように咲いています
酔蝶花は深い闇の伝説を語るように
どこからか吹いてくる風のそよぎに
微かな香りを混じらせていきます
すると大分過ぎてしまった時計がまわりだし
消えていた私の悲しさや 淋しさの匂いが
酔蝶花の傍らに漂い始め
あの時の後ろ姿がひとしお蘇ってきます
故郷を離れた夜の深い哀しみ
行き先の不安を感じるような
全山を包む漆黒の中
無情なほど進むことを拒んだ山霧
あの時の峠が迫ってきました
夜はひっそりと心の波紋を広げていきます
今宵の月明かりは
ひらりと昼間を飛び越えて
ひらりと過去を押しやって
夜は静かにたゆたゆと流れています
酔蝶花の蜜を吸うように
虫たちが飛びかい命をつないでいます
いくつもの思いを背負った私の心歌は
命をつなぐことはできたのでしょうか
私の眼の奥で
揺れている私の道すがらを
酔蝶花は夜のやさしさで包んでいます