城でダンスを踊っても

高安ミツ子


帰りついたこの部屋

私の酸素しかないはずなのに

帰って行った微笑と言葉が

小さな城になってあるのです

くずれるように

回転椅子にすわって少し回ると

城のいくつもの窓が開き

シューズをはいた私の酔いは

そのオルゴールに吸いこまれたのです


開かれたいくつかもの酒宴から

あふれていた調べに

踊りまわりながら

燭台のゆれるたびに

「見かけませんでしたか 紫おびた焼き物を」

変わるパートナーに尋ねてまわる

やがて稀薄になってゆくばかりの空気は

灯りを苦しそうに消し始めた


距離の寒さが

椅子のまわりをを包むので

一人ふりはらうように

あの人の言葉でストールを作った

その暖かさから動くまいと

ゆっくりと回り続けているのです

暗い部屋なのに

サングラスをかけたまま