詩集「聴花}
秋 桜

高安ミツ子


     
     
   
 
窓の外は鳩が飛び交い

時のフイルムが頭上を廻っている

私の翼は弱く震えて

不安の糸をたぐるように眼を閉じた


眠りは光に映える蝶になり

眠りは降り積もる悲しみになり

眠りは傘傾けた人への想いになる

感情の折り紙を小さく 小さく

折りたたむたびに

我が子の足の痛みが消えるのを願った


昨日も今日も未完のまま

寒い思いはグラフ状に体内を沈んでゆき

秘仏に手を合わせ

安らぐ眠りをまさぐっている


眠りの中でドラマが幾重にもなり

私の姿が私から逃げてしまう

波頭高く押し寄せる大波に

廃船のように目覚めてみると

子供はやはり病院のベッドの上


私の履物に

日常の重みがくいこんでくるから

今日の鏡を磨こうと静かな気持ちになったとき

鏡の奥の夕空のもと

秋桜の群生が揺らぎ出し

その幻想はぼんやりとした輪郭で

私と子供を包んでくれた

明日の澄んだ秋空を予告しているように