明け方鳴く蛙の淋しさに

居候の私は手紙を書いています

私の家主は

枯れたタンポポの頭に愁いをみるようで

羽が飛んで行く時

風船のような顔になります

家主は?女なんです

私は彼女のもろさを握っては

だんだん大きくいすわっているのです


彼女はとても淋しがり屋で

だんなの腕に宙ずりになっていますが

私が身動きしますと

世間体が悪いと雨戸を毎日しめております


部屋が暗くなると

ルージュをひいて嘘をつき

鏡の前では泣き虫になり

ぬいぐるみ人形にまでわがままをいうのです

家はすっかり荒れ放題

私が覆面をかぶっていたものだから

安心して間借りさせたものの

この頃は私が女であるのか男であるのかさえ

朝夕祈っては疑っています


荒れはてたとはいえ

家主は自分の夢を飾りたいのか

毎日ありもしないものを

マーケットに買物に行くのです

夢が見つからないと分かった時

非常に淋しくなりだんなと二人で

山のようなベッドに

川のように寝ています

私の姿?

夏のカンナの頃生まれるかもしれません





              

詩集「きこえてくる驟雨」

この手紙・宛先不明

高安ミツ子