冬空に春蘭は咲いて 
                           高安ミツ子


     
                  

寒さに抗うことなく

凛として優しく 優しく

萌黄色に咲いている春蘭

 

ありがとうと言わなければならない人が

皆旅立ってしまい

体も心もそぎ落とされていく

私の哀しさを

春蘭はゆるゆると安堵の時を結んで

私の命を慈しんでくれる

 

喝采をうける花ではないけれど

今年 春蘭は目立たなく鉢いっぱい蕾を付けた

 

雲は高く光は弱くきらめいて

それでもわずかな生命を遥かな橋にかけようと

今日の風景は愛おしく過ぎていく