時の嵐に壊されることなく
その歳月を共に語れる喜びを
二組の夫婦は
老いる思いを後ろに回し
旅の風に愛おしさを結びながら
粉雪が舞う北陸の街に下りました
雪に包まれた
町も山も海も静かに生きています
打ち寄せる荒波と共に
重ねた塗り物の伝統は澄んだ声で
私の心に美しいかんざしをつけてくれます
輪島の冬は時計が止まっています
ゆきずりの私には見えないけれど
この町が流したいくつもの涙が作る優しさなのか
雪の静けさは赤い椿を連想させ
私に生きるめがねをかけてくれます
弟夫婦の肩にも
雪は降りかかり
過ぎてきた時間だけ
鬢(びん)が白くなっています
弟の後姿には疲れがみえます
雪女に操られているように
降り続ける雪 雪 雪
忘れていた母の声が落ちてきます
凍えている弟の心に
母よあなたの温かい息をふきかけてほしいのです
ブリの丼を食べる今日の旅は
海鳴りが遠くに聞こえます
輪島の雪は正月を降り続いています