高安ミツ子


  

 

 春のプロローグが始まったばかりなのに

 昨夜の雨で「なにわいばら」は

 はら はら と

 思い出を消してゆきました

 純白のまま昨日を消して

 誇らかに新しい命を結んでいます


 にわかに聞こえる笑いさざめく花たちよ

 心残りなく散ってゆく花たちよ

 生と死が一輪の花に答えがあるならば

 過ぎていく時間のほとりをさまよっている

 臆病な私は愚かな歩みとみえましょう


 去り行く春に

 さようならとは言えますが

 明日の輪郭がない私のつぶやきを投げかけて

 また来年花物語で会いましょうとは言えないのです

 「なにわいばら」は

 そんな私の寂しさに答えるように微笑んで

 風に揺れて春の酔いを醸し出していきました


 春の酔いは月の光のやさしさで

 一つの憂いとなっている私の心と体の錆を

 時間を止めてそして拭ってくれていくのです


 私の生命は

 いずこにたどり着くかはわからないけれど

 幼いころ小川に笹舟を流した時のように

 静かに時の川に流していこうと思えるのです


 春の酔いはうらうらと

 一筆書きで今日の私を歩ませてくれ
ています